
歴史History
初代新井家住宅当主 新井末吉について About Suekichi Arai,The founder of arai residence
江戸〜明治
新井(にいい)家は新川(にいかわ)家の分流であり、宗家の新川家は徳川幕府以前より泉州日根郡の豪族として存在し、江戸時代には名字帯刀を許され、代々大庄屋又は代官の役を努めた旧家でありました。
新井末吉は1864(元治元)年に比較的裕福な家庭に生まれましたが、父親の代に明治維新後の混乱で家産のほとんどを失いました。16歳の頃に兄を頼り大阪に出て、石油空罐の商いや人力車夫から身を起こし、弱冠18歳の頃に洋品模造の雑貨商を起業いたしました。その後、米穀相場師、舶来雑貨商、手帳の製造販売、玩具の製造販売等の事業を手がけ、時には成功を掴みかけるも3度の火事に遭い資産を失うなど、明治期は苦難に満ちた時代を過ごします。
なお、1885(明治18)年頃、ドイツ製のタオルを入手した末吉はその品質に感じ入り、同郷の友人である里井円次郎氏に製造を勧めました。里井氏が研究の末、タオル製織に成功し製造を始めた事が国産タオル(泉州タオル)の起源とされています。

㊁の称号が入った法被。
襟に「株」、下部に「公債株式現物売買」とある
大正
しかし末吉は苦境にも不撓不屈(ふとうふくつ)の精神で立ち上がり、大正期に入り50代となってから㊁の商号で始めた電話売買業が遂に軌道に乗ります。その後、長男の健治、娘婿の正治を両輪に据え、証券取引、不動産取引、米穀取引、三品取引等を営み、新井商事株式会社、新井証券株式会社 等を発足させ事業は大いに発展しました。
1934(昭和9)年には大阪北浜・今橋2丁目に元銀行建築のビルを取得し「新井ビル」と命名し新井証券本店としました。この「新井ビル」は現存し、新井家住宅同様こちらも1997(平成9)年に登録有形文化財に登録されており、2022(令和4)年には竣工100周年を迎え現役の商用ビルとして活用されています(新井ビルのサイトはこちら)。
ちなみに、電話売買業を始めた頃、姓の「にいい」にの音から㊁の商号を使いましたが、電話対応等で一般的に聴き取りにくいとのことで、それ以降「あらい」と名乗りました。

取得当時の新井ビル
昭和
1932(昭和7)年、老齢に入り静かに想を練る居を求めると共に、大阪商人の社交場となるよう生地の泉佐野に自宅兼迎賓館として新井家住宅の建築を着工、1年半の工期を経て落成しました。末吉は当所にて政財界の方々との交流に努め、教育や財界の発展、地元の地域振興に尽力するなど精力的に活動しましたが、1936(昭和11)年に惜しまれながらその生涯を全うしました。
出典:「末吉翁一代記」 阿倍禮司著(昭和11年)、新井律子編さん(平成18年)

左から新井クラ、末吉、斎藤子爵、新井健治、正治

昭和10年 斉藤実子爵(第30代内閣総理大臣)来訪時のお見送り

令和4年 同所での近影
その後、新井家住宅及び家業は長男 新井健治が継承し戦中、戦後の混乱を乗り切りました。1946(昭和21)年には健治の長女 節子の娘婿に真一を迎えました。新井真一は先の大阪万博にて計画時の事務総長を務め、国家プロジェクトの成功に奔走し、芸術家 岡本太郎氏にテーマプロデューサーを依頼するなどのエピソードで知られています。1971(昭和51)年に健治が逝去、真一が新井家住宅3代目当主と継続会社を引き継ぎました。新井真一についてはこちらをご参照ください(新井ビルの歴史のサイトはこちら)。
2012(平成24)年より、長男の新井健一が4代目当主及び継続会社を引き継ぎ現在に至っています。

新井真一
大阪万博事務総長時代(大阪府提供)
新井家住宅年表
1864(元治元)年 | 初代当主 新井末吉 泉南郡北中通村(現 泉佐野市中庄)にて生まれる |
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1878(明治11)年 | 長兄を頼り大阪へ |
1882(明治15)年 | 洋品模造雑貨商を開業 |
1915(大正04)年 | 大阪 堂島にて電話売買業を開業 その後、債権取引、不動産取引、証券取引などに事業拡大 |
1922(大正11)年 | 新井商事株式会社設立 |
1927(昭和02)年 | 新井証券株式会社(現 新井株式会社)設立 |
1932(昭和07)年 | 新井家住宅 着工 |
1936(昭和11)年 | 新井末吉 逝去 新井健治 2代目当主継承 |
1945(昭和20)年 | 陸軍佐野飛行場の設置に伴い、新井家住宅に大隊本部が設置される 戦中には3度ほど屋根瓦を機銃掃射にあう |
1971(昭和51)年 | 新井健治 逝去 新井真一 3代目当主継承 |
1999(平成11)年 | 国の登録有形文化財に登録 |
2012(平成24)年 | 新井真一 逝去 新井健一 4代目当主継承 |
2014(平成26)年 | 関西大学 工学博士 西澤英和教授(当時)の監修にて建築構造調査を実施 その後の耐震を含む補強工事を実施 |
2018(平成30)年 | 台風21号の直撃にて被災 |
2023(令和05)年 | 台風被害の補修、補強工事完了 キッチンスタジオ設置、レンタルスペースとしての運用開始 |